忍者ブログ
思うがままにつづったこころの中。その2 + あらゆるジャンルの二次Novel。まずはお知らせをチェック!
[23]  [22]  [21]  [20]  [19]  [18]  [17]  [16]  [15]  [14]  [13
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

     Ferret’s Tail -4-


 翌日からハーマイオニーと白イタチの奇妙な日常が始まった。
 白イタチはハーマイオニーが中庭にいるときに表れるのだった。それも、決まって一人で本を読んでいるときに。
 
 その日は今年初めての雪が降ったのだが、ハーマイオニーは中庭でも屋根のあるところを見つけて本を読んでいた。膝の上にはいつかのマグルの童話についての分厚い本が置かれ、脇には彼女が得意とする持ち運び可能な火が透明なビンの中で淡いオレンジを放っていた。こんな寒い日なのにわざわざ外で読書をすると決めたのは、またあの白イタチが来るに違いない、という根拠のない自信があったからだった。彼に聞いておきたいことがあった。
 案の定、カサリ、という微かな草の音を聞いてハーマイオニーが本から顔を上げると、その足もとの草むらから雪と見紛うほど白いイタチの顔が覗いていた。
「あら、こんなに寒いのにまた来たのね?」
 ハーマイオニーが本を脇に置いて呼びかけると、白イタチは青い目でハーマイオニーを見つめた後、くるんと尻尾を向けた。しかし逃げようと思ったわけではないらしい。ハーマイオニーが手を伸ばすと大人しくその中に収まった。白イタチを膝の上に乗せ、ハーマイオニーは一度閉じた本を開く。
「ねぇ、聞いて? この記述、面白いのよ。『童話・美女と野獣における赤い花について、これにかけられた魔法は実際には不可能なものであり、マグルが魔法について抱く幻想をよく表している』ですって。私、子供のころからずっと願ってたのに残念だわ。こんな風に誰かの愛を表す花が私にも作れたらいいのに、って」
 白イタチが表れるようになってから、ハーマイオニーはよくこうして自分の読んでいる本の内容を話しかけていた。そういう時、白イタチはハーマイオニーの膝の上でじっとしていることが多かった。まるで文字を追っているかのように、頭を左右に動かしているのだ。はじめのうちはハーマイオニーも驚いていたのだが、だんだんそれが当たり前になり、白イタチは彼女の日常に溶け込んでいった。
 今日も一生懸命頭を揺らす白イタチに、ねぇ、と呼びかけると、それは本から顔を上げてくるりと上を向き、茶色の瞳を見つめた。そこで彼女は聞いておきたかったある疑問を投げかける。
「私がここで本を読んでるといつも表れるじゃない。あなた、中庭に住んでるの? それとももしかして……私を待ってたの?」
 白イタチは答える代わりにふいと目を逸らした。それがイエスと言っているようで、ハーマイオニーは思わず笑いを漏らす。
「そうなのね、ありがとう。こんなに寒かったのに待っててくれて」
 肌触りのよい白い毛並みを梳かしながら言うと、白イタチは長い尻尾をペタンと本の上に打ち付けた。こちらを向こうとはしない。照れてるの? と問いかけると、今度はくるっと勢いよくハーマイオニーの方を向いて、その青い目で彼女を睨んだ(ようにハーマイオニーには見えた)。
「意地っ張りで天の邪鬼なのね」
 クスッと笑う。あの夜から何度か繰り返されたこの「意地っ張り」のやり取りはハーマイオニーを楽しませていた。その反応はシルバーブロンドの彼を思い出させるものだったが、もしあの白イタチが彼だとしても構わなかった。それはいつも彼女を罵るその言葉がないからかもしれなかったし、素直に彼女の言うことに耳を傾けてくれることが嬉しかったからかもしれなかった。ハーマイオニーは手を止めずに呟いた。
「私、あなたになら何でも話せる気がしたの」
 それは事実だったが、意識して避けていた話題があった。それは彼女の一番大切な親友のことだった。それは彼女自身の「意地っ張り」のようなものだった。何か越えてはいけない線がそこにある気がして、ずっとその名前を口にできなかったのだった。ハリーやロンと共に様々な困難を乗り越えてきたハーマイオニーにとって、ただ平和に毎日が過ぎてくれればそれより嬉しいことはなかったし、自分の発した言葉で起こる無駄な争いは避けたかった。
「あなた、本当は……」
 言葉を切ったハーマイオニーに、本の上の彼が不審な目を向けた。
「いいえ、やっぱりやめておく」
 ハーマイオニーは無理やり笑う。白イタチはその笑顔に気付いたかどうかわからなかったが、自分の背を梳いていた手に身を寄せた。ハーマイオニーはそのふわふわを楽しむように目を閉じる。
 ……と、キュン、と小さな声が聞こえた。目を開けると白イタチがぷるぷるっと体を震わせている。ハーマイオニーはそれをキョトンと見つめたあと、はっと何かに気づいて肩を震わせた。笑いが込み上げてきたのだ。
「あなた、もしかして今、くしゃみした?」
 白イタチは特に彼女の顔を見ようともしないで丸くなる。
「そんなに綺麗な毛皮を着てるのに、やっぱりスコットランドの冬は寒いのね。ちょっと待って」
 ハーマイオニーは自分のマフラーの一方だけ長く伸ばすと、それを膝の上の白イタチに落とした。きつくなり過ぎないように、それでも寒い空気がなるべく入らないように気を付けて巻いていく。すぐにグリフィンドールの赤と金の中に映える白イタチが出来上がった。
「どう?これでちょっとは暖かくなった?」
 白イタチはマフラーに顔を埋めてしまい、ハーマイオニーの目に映るのはまさに白いふわふわな塊。それを優しく撫でるとぴくっと動いたが、どうやらもうそこから顔を見せる気はないようだった。
「仕方ないわね。私がこの本を読み終わるまで、こうしててあげるわ」
 ハーマイオニーはくすりと笑って白いふわふわを潰さないように注意して本を開き、美女と野獣についての考察にもう一度目を走らせた。



[←Back] [Next→]

***
いつも書きながら、自ら指定したイタチちゃんの動きに萌えてたりします笑。
だってくしゃみとか、マフラーに埋もれる白いふわふわとか…!
あ、あと本の記述は適当です(えへ)
でもどんな魔法をもってしても、人の愛をはかる方法なんてきっとない。
それこそ人が魔法や神に抱く幻想なのかもしれないな、なんて。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
06 2025/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
最新コメント
最新トラックバック
プロフィール
HN:
Mie(ミィ)
性別:
女性
バーコード
ブログ内検索
アクセス解析

Designed by IORI
PHOTO by 有毒ユートピアン

忍者ブログ [PR]