思うがままにつづったこころの中。その2
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これは魔法で姿を変えられた白イタチの、ちょっと甘く、ちょっと切ない物語。
Ferret’s Tail -1-
風が秋の色を帯びてきた中庭で、ハーマイオニーは一人本を読んでいた。彼女が手にしているのは『マグルの童話100選 魔法という目を通して』と書かれた分厚い本。もちろんマグル生まれの彼女にとってはどれも小さい頃に母親から聞かせられた馴染み深い話だったが、それを魔法界の視点から考察していたこの本は興味深いものだった。中でも特に目を引いたのは「美女と野獣」。魔法で野獣へと姿を変えられた男が商人の娘と恋に落ち、愛を成就させると本来の姿に戻ることが出来た、という話だ。
華奢な腕には重すぎるその本を脇に下ろしてふぅ、と一息つく。この世界で5年も過ごすと異種というものに偏見や恐怖を抱くことは少なくなった。何しろここには巨人もゴブリンもいるし、ケンタウロスのように人間にも通じる言葉を話すものもいる。しかし、その本来の姿ではないと知っていても、自分がこの娘のように野獣と恋に落ちる姿は想像できなかった。それ以前に心を通わせることすら不可能のような気がした。
ハーマイオニーが悶々と考えを巡らせていた時、視界の隅を白い何かが横切った。すぐ後ろをオレンジ色の何かが続く。ハーマイオニーはそのオレンジがペットのクルックシャンクスだと気付いて、その姿を目で追った。クルックシャンクスが睨んでいたのは城の壁と壁の間に出来た細い隙間だった。
「クルックシャンクス、どうしたの?」
ハーマイオニーが柔らかく声をかけてもクルックシャンクスは緊張を解かない。低い威嚇音をあげて毛を逆立たせていた。ハーマイオニーがその毛並みをそっと撫でると一瞬体を強張らせたが、すぐにミャオ、と鳴いて主人を見上げ、尻尾をくねらせた。
「もう……今度は一体何を見つけたの? ちょっとごめんね」
そう言ってオレンジを抱きあげる。そうしてできた隙間から中を覗き込んだ。
薄暗い中でかろうじて見えたのはくりくりした青色の目。追手から解放されたことにまだ安心できないのか、それは固まったまま目をぱちぱちさせていた。
「もう大丈夫よ。出ておいで」
ハーマイオニーがそう言って手を伸ばすとそれは身を翻し、彼女の伸ばした手と反対の方向に逃げた。
…否、逃げようとした。
実際はその先は行き止まりになっていて、それに気付いた白い何かは慌てふためいてパニックになったようで、細い隙間の中を必死で逃げ回っていた。ハーマイオニーはその光景を見て溜息を漏らす。
「さっきクルックシャンクスに追いかけられた時に、行き止まりだってわかってたはずなのに……ほら、出ておいで。あなたを傷つけるようなことは何もしないから」
ハーマイオニーの言葉なんてまるで聴こえていないようで、それは狭い中を走り回る。ハーマイオニーは仕方ないわね、と呟いて隙間に手を伸ばした。目一杯腕を伸ばしてやっと、白いふわふわした何かに辿り着く。優しくそれを掴んで明るいところへ引き寄せた。
「あら……イタチ? しかも綺麗に真っ白ね」
とうとう捕まってしまった白イタチはキーキー声を上げて体をよじり、なんとかその手の中から逃れようとしていた。肩に乗せられたクルックシャンクスがイタチに向かって唸り声を上げる。
「クルックシャンクス、ちょっと大人しくしなさい! この子が怖がっちゃうわ」
その言葉にクルックシャンクスはぷいとそっぽを向き、ひとつ大きな欠伸をしたかと思うとしなやかに彼女の肩から飛び降りた。夕食のネズミでも探しに行くつもりなのだろうか、尻尾をイライラしたように強く振ると歩き出し、城の角へと消えていった。
「まったくもう……」
その後ろ姿を見やって一つ溜息を落とすと、ハーマイオニーはまだ抗議の声を上げて暴れている白イタチに向き直って、ずいと指を突きつけた。
「あなたもあなたよ! クルックシャンクスはあなたを取って食べたりしないわ。それにもういないんだからそんなに暴れないで!」
命からがら逃げてきた動物に対してそんな理不尽な理由は通じないはずなのだが、白イタチは突きつけられた指に驚いたのか、ピタッと暴れることをやめた。ハーマイオニーはそれに満足してにっこり笑う。
「私の言ってることが分かるんじゃない。いい子ね」
本当にふわふわ~、と嬉しそうに言いながらハーマイオニーはその白い毛並みを撫でた。白イタチはくすぐったそうに体をよじったが、もう逃げる気はないようだった。
「あなたの白い毛、本当に綺麗で羨ましいわ。私なんかどう頑張ってもボサボサで嫌になっちゃう」
ハーマイオニーはその顔を覗き込む。白イタチの目が細められた。
「綺麗な青い目をしてるのね。でも……その目はやめて? なんだか思い出したくない誰かさんにすごく似てるの」
白イタチが動きを止める。ハーマイオニーは気付かずに言葉を続けた。
「聞いて。そいつはね、いつも威張ってて私や私の大切な友達にひどいことをするの。あいつにとって一番大事なのは家柄なんだわ。そんな風に生きて本当の友達や大切な人が出来るのかしら、って思うけど……ま、私には関係ない話ね」
ハーマイオニーの手の中でイタチが少し暴れたが、続いて出た彼女の言葉にまたしても固まった。
「でもちょっと羨ましいの。あのさらさらのプラチナブロンドだけはいいな、って思った。ほら、さっきも言ったけど、私の髪はこんなだから」
空いていた方の手に自分の髪をからませる。優しい目でイタチを見るとふわっと笑った。
「あなたの白いふわふわな毛。思い出しちゃうじゃない、マルフォイのこと」
しかしハーマイオニーがもう一度撫でようとすると、手の力を緩めたその一瞬で白イタチは地面に飛び降りた。あ、と追いかけようとしたが、声をかける間もなくかなりのスピードで草むらをすり抜けていく。すぐにどこに行ったか分からなくなってしまった。ハーマイオニーはぱたんとベンチに腰を落とす。
「……あんなに嫌がることないのに」
ついさっきまで温もりを握っていた手を見下ろした。もう少しあの白いふわふわを撫でていたかった、なんて思って。
「なんであんなこと言っちゃったのかしら」
あのふわふわを抱いていたら嫌いな彼を思い出して、つい言葉が口を出てしまった。なんだかいらないこと、余計なことまで話してしまったような気がする。動物相手だからつい心を許してしまったのだろうか、でもあのイタチの素振りはまるでハーマイオニーの言葉をわかっていたようだった。
「まさか……ね」
頭を振って自分の中に生まれたあり得ない可能性を振り払い、ハーマイオニーはすくっと立ち上がった。もうすぐ夕食の時間だ。大広間へと足を進めると、入口で手を振っているハリーとロンの姿が見えた。さっきの妙な出逢いは内緒、でも確認しなくてはいけないことがある、と思った。ここまで来たらハリーたちに聞くまでもないだろう。この目で確かめればいい。大広間に入ったらまず一番壁際のテーブルに目を走らせるのだ。ハーマイオニーの羨むシルバーブロンドがそこにいるかどうかを。
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異種と心を通わせる……このお話の一つのテーマです。
それは一見難しく見えるけれど、異種であるが故に容易く出来る時だってあると思うのです。
これからのハーちゃんと白イタチくんを見守ってやってください。
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異種と心を通わせる……このお話の一つのテーマです。
それは一見難しく見えるけれど、異種であるが故に容易く出来る時だってあると思うのです。
これからのハーちゃんと白イタチくんを見守ってやってください。
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