思うがままにつづったこころの中。その2
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Ferret’s Tail -5-
しかし奇妙な一人と一匹の時間はそれからなかなか訪れなかった。その一番の原因はハーマイオニーが忙しさに追われて中庭で読書をする時間を取れなかったからだ。ハリーはヴォルデモートの力が強まっていると訴え、またその頭の中に入り込んで誰かを探し彷徨う光景を見たと告げた。ロンと二人であれこれ仮説を立てるハリーに「心を閉じなさい!」と何度怒鳴ったことだろうか。彼らと議論している時間の方が一人で過ごす時間より確実に長くなっていった。ハーマイオニーもはじめのうちは白イタチのことを気にしていたが、だんだんそんな余裕もなくなっていった。
そんな風に忙しい日々に追われていた頃、ハーマイオニーは久しぶりに中庭へ足を踏み入れたのだった。
「春ももうすぐかしら」
ふと、城と中庭の境に咲くスノードロップに目を落とす。すぅっと手を伸ばしてその元を手折ると、杖を出して魔法を唱えた。一瞬スノードロップの周りに雪の結晶のような細かく輝くものが舞ったが、花そのものに大きな変化は見られない。
「何の魔法をかけたのさ?」
唐突に背後からかけられた声にさっと振り向く。そこにいたのはいつの間にか見上げなければ目を合わせられないくらい成長した大切な親友の一人だった。
「あら、ロン。どうしたの? さっきハリーと暖炉の前で話し込んでたじゃない」
「そうなんだけど……」
赤毛の少年はその髪をかきながら答えた。
「ハーマイオニーがどこ行ったのかと思って」
頬が心なしか染まっている。ハーマイオニーはきょとんとしてその顔を見つめた。それじゃあロンが自分のことを気にかけてくれたと言っているようなものじゃないか。こんな時に働かない頭をフル回転させようとした……が。
「ちょっと座ろう」
急にハーマイオニーは手を引かれて、一番近くにあるベンチまで連れていかれた。されるがままにロンの隣に腰を落とす。
「あ、あの…ロン…」
「で、さっきのは何?」
「え?」
「だからさっきその花にかけた魔法。見た感じ何も変わってないみたいだけど」
何も気にしていないようにいつもの調子で問いかけるロンに、ハーマイオニーは戸惑いながら答えた。
「え、えぇ、これね……時間を止める魔法よ」
「え? でも言ってたじゃないか。魔法使いでも時の流れを変えることはできないって」
「正確にはちょっと凍らせただけ。プリザーブドフラワーみたいなものかしら」
「プリザーブドフラワー? 何だよ、それ」
ロンは眉間にしわを寄せて、初めて耳にしたらしい言葉を言いにくそうに発音した。いつも通りの会話の流れに乗って、ハーマイオニーもいつものように流暢に答え始める。
「あら、マグルだけのやり方なのかしら? 切り花をより長い間もたせる方法よ」
「へぇ。俺んちではだいたい魔法薬で済ませるなぁ。それ、どうやるの? 今度教えてよ。母さんがいつも俺に世話を任せるから苦労してたんだ」
「そうね、きっとおばさまなら喜んでくれうと思うわ」
ハーマイオニーがくすりと笑う。それを見てロンも嬉しそうに顔をほころばせた。
2月の冷たい風に乗って白が舞う。
ハーマイオニーが漆黒の空に向かって指をさし、つられてロンが顔を上げた。
「今年最後の雪かもしれないわ」
「そうかもな。それ、もしかしてそういう花?」
ロンがハーマイオニーの手に握られた白い花を指差す。
「えぇ。この花が咲くと春が近い証なんですって」
「ふぅん。……でも、まだ寒いから春は当分来ないんじゃない?」
ロンのその言葉にハーマイオニーははっとして慌ててローブから杖を取り出した。
「寒い?」
「……ちょっと?」
「気付かなくてごめんなさい! 今火を作るから待って……」
「いいよ、これで」
ハーマイオニーの体がぽすんと倒れる。肩にロンの大きな手が回され、火を出そうとして上げた杖は振られずに膝の上に落とされた。
「ロン……?」
「いいだろ。これでも十分あったかいんだから」
「でも……」
ロンの空いた手が頬にスッと伸ばされて、ハーマイオニーはわずかに体を強張らせる。
「つめた……」
そのまま大きな手で包み込むとハーマイオニーの顔を上げさせる。ロンの顔が近づいてきてハーマイオニーは焦り出した。
「ちょ、ちょっと」
「イヤ?」
「そんなんじゃ……」
「じゃあ黙って」
親友だと思っていた彼の今まで聞いたことのない真剣な声に戸惑っていたら、軽いキスが落とされた。
「……っ」
ハーマイオニーは真っ赤になってロンから顔を遠ざける。吐く息が震えていた。
二人の間を風が走った。冷たいはずの風が、ちっとも冷たく感じない。
「もし本当に嫌だったなら謝る」
背後からロンの声が聞こえた。
「でも……俺は本気だから」
ハーマイオニーの体がぴくんと震えた。積り始めた雪を踏みしめる音が微かに聞こえて、ぽすんと温かい手が頭に置かれた。見上げるとロンが隣で空を見上げるように立っていた。
「本当はもっと色々考えてたんだけど……急にごめん」
振り向いてハーマイオニーの目を捉えて続ける。
「別に今すぐどうしろとか言わないから。ゆっくり考えてもらって構わない」
答えを返せないハーマイオニーの頭をもう一度軽くぽんと叩くと、「寒っ」と言いながらローブを丸めこんで城に戻っていった。
ハーマイオニーはしばらくその後ろ姿に目を向ける。薄々そんな気はしていたし、自分でもそうなればいいと思っていた。でもいざ目の前にして言われるとまだ心が混乱していた。ロンの姿が見えなくなった城から目を離して、今度は空を見上げる。
「答えなんて、決まってるじゃない……」
でもロンにすぐ答えを返せなかったのはなぜ。この心に渦巻いている霧は何なのか。そう考えてはぁ、っと大きなため息を落とす。それは白い霧となってすぐに消えてしまった。
その時。しゃく、という微かな雪を踏み分ける音が聞こえた。
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***
うわぁーロンハー!しかも あ ま す ぎ る ! !
ごめんねごめん、Mieはドラハー至上主義なんだよ。
でもストーリーの都合上どうしようもなかったんだ。
ていうか全体を通してロン→←ハー←ドラな空気が漂ってるんだ。
「Nora」の切なさが叶わぬ恋のドラ→ハーに重なっちゃったんだ…。
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うわぁーロンハー!しかも あ ま す ぎ る ! !
ごめんねごめん、Mieはドラハー至上主義なんだよ。
でもストーリーの都合上どうしようもなかったんだ。
ていうか全体を通してロン→←ハー←ドラな空気が漂ってるんだ。
「Nora」の切なさが叶わぬ恋のドラ→ハーに重なっちゃったんだ…。
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Ferret’s Tail -4-
翌日からハーマイオニーと白イタチの奇妙な日常が始まった。
翌日からハーマイオニーと白イタチの奇妙な日常が始まった。
白イタチはハーマイオニーが中庭にいるときに表れるのだった。それも、決まって一人で本を読んでいるときに。
その日は今年初めての雪が降ったのだが、ハーマイオニーは中庭でも屋根のあるところを見つけて本を読んでいた。膝の上にはいつかのマグルの童話についての分厚い本が置かれ、脇には彼女が得意とする持ち運び可能な火が透明なビンの中で淡いオレンジを放っていた。こんな寒い日なのにわざわざ外で読書をすると決めたのは、またあの白イタチが来るに違いない、という根拠のない自信があったからだった。彼に聞いておきたいことがあった。
案の定、カサリ、という微かな草の音を聞いてハーマイオニーが本から顔を上げると、その足もとの草むらから雪と見紛うほど白いイタチの顔が覗いていた。
「あら、こんなに寒いのにまた来たのね?」
ハーマイオニーが本を脇に置いて呼びかけると、白イタチは青い目でハーマイオニーを見つめた後、くるんと尻尾を向けた。しかし逃げようと思ったわけではないらしい。ハーマイオニーが手を伸ばすと大人しくその中に収まった。白イタチを膝の上に乗せ、ハーマイオニーは一度閉じた本を開く。
「ねぇ、聞いて? この記述、面白いのよ。『童話・美女と野獣における赤い花について、これにかけられた魔法は実際には不可能なものであり、マグルが魔法について抱く幻想をよく表している』ですって。私、子供のころからずっと願ってたのに残念だわ。こんな風に誰かの愛を表す花が私にも作れたらいいのに、って」
白イタチが表れるようになってから、ハーマイオニーはよくこうして自分の読んでいる本の内容を話しかけていた。そういう時、白イタチはハーマイオニーの膝の上でじっとしていることが多かった。まるで文字を追っているかのように、頭を左右に動かしているのだ。はじめのうちはハーマイオニーも驚いていたのだが、だんだんそれが当たり前になり、白イタチは彼女の日常に溶け込んでいった。
今日も一生懸命頭を揺らす白イタチに、ねぇ、と呼びかけると、それは本から顔を上げてくるりと上を向き、茶色の瞳を見つめた。そこで彼女は聞いておきたかったある疑問を投げかける。
「私がここで本を読んでるといつも表れるじゃない。あなた、中庭に住んでるの? それとももしかして……私を待ってたの?」
白イタチは答える代わりにふいと目を逸らした。それがイエスと言っているようで、ハーマイオニーは思わず笑いを漏らす。
「そうなのね、ありがとう。こんなに寒かったのに待っててくれて」
肌触りのよい白い毛並みを梳かしながら言うと、白イタチは長い尻尾をペタンと本の上に打ち付けた。こちらを向こうとはしない。照れてるの? と問いかけると、今度はくるっと勢いよくハーマイオニーの方を向いて、その青い目で彼女を睨んだ(ようにハーマイオニーには見えた)。
「意地っ張りで天の邪鬼なのね」
クスッと笑う。あの夜から何度か繰り返されたこの「意地っ張り」のやり取りはハーマイオニーを楽しませていた。その反応はシルバーブロンドの彼を思い出させるものだったが、もしあの白イタチが彼だとしても構わなかった。それはいつも彼女を罵るその言葉がないからかもしれなかったし、素直に彼女の言うことに耳を傾けてくれることが嬉しかったからかもしれなかった。ハーマイオニーは手を止めずに呟いた。
「私、あなたになら何でも話せる気がしたの」
それは事実だったが、意識して避けていた話題があった。それは彼女の一番大切な親友のことだった。それは彼女自身の「意地っ張り」のようなものだった。何か越えてはいけない線がそこにある気がして、ずっとその名前を口にできなかったのだった。ハリーやロンと共に様々な困難を乗り越えてきたハーマイオニーにとって、ただ平和に毎日が過ぎてくれればそれより嬉しいことはなかったし、自分の発した言葉で起こる無駄な争いは避けたかった。
「あなた、本当は……」
言葉を切ったハーマイオニーに、本の上の彼が不審な目を向けた。
「いいえ、やっぱりやめておく」
ハーマイオニーは無理やり笑う。白イタチはその笑顔に気付いたかどうかわからなかったが、自分の背を梳いていた手に身を寄せた。ハーマイオニーはそのふわふわを楽しむように目を閉じる。
……と、キュン、と小さな声が聞こえた。目を開けると白イタチがぷるぷるっと体を震わせている。ハーマイオニーはそれをキョトンと見つめたあと、はっと何かに気づいて肩を震わせた。笑いが込み上げてきたのだ。
「あなた、もしかして今、くしゃみした?」
白イタチは特に彼女の顔を見ようともしないで丸くなる。
「そんなに綺麗な毛皮を着てるのに、やっぱりスコットランドの冬は寒いのね。ちょっと待って」
ハーマイオニーは自分のマフラーの一方だけ長く伸ばすと、それを膝の上の白イタチに落とした。きつくなり過ぎないように、それでも寒い空気がなるべく入らないように気を付けて巻いていく。すぐにグリフィンドールの赤と金の中に映える白イタチが出来上がった。
「どう?これでちょっとは暖かくなった?」
白イタチはマフラーに顔を埋めてしまい、ハーマイオニーの目に映るのはまさに白いふわふわな塊。それを優しく撫でるとぴくっと動いたが、どうやらもうそこから顔を見せる気はないようだった。
「仕方ないわね。私がこの本を読み終わるまで、こうしててあげるわ」
Ferret’s Tail -3-
「どのくらい効くかわからないけれど……」
ハーマイオニーは自分の部屋へ連れて帰った白イタチをベッドの上に乗せ、ローブの胸元から杖を取り出した。さっき暴れたせいで疲れ果てて小さく息をする体にそれを向ける。
「お願いだからじっとしててね。……Episkey」
杖の先が仄かに白い光を放ち、白イタチの体がぶるぶるっと震えた。それきり動かない。
「ちょっと、大丈夫!?」
ハーマイオニーは杖を置いてその白い毛並みにゆっくり手を伸ばす。その手が体に触れる直前、白イタチはぱっと飛び起きて青い目でハーマイオニーを仰いだ。ハーマイオニーはその目をきょとんと見つめて、はぁ、と息を吐いた。
「もう、びっくりさせないで。何か起こったかと思ったじゃない」
胸を撫で下ろすハーマイオニーの目の前、彼女のベッドの上で白イタチは今まで弱っていたのが嘘のように歩き回っていた。枕元まで行ったかと思うとくるりと尻尾をくねらせて足元へ向かう。途中で毛布に足を取られてつんのめったが、すぐに何事もなかったように起き上がり、また歩き始める。ハーマイオニーは思わず吹き出してしまった。
「あなた、やっぱり似てるわね」
ハーマイオニーが呟くと、白イタチはちょっと彼女に目を向けてからベッドの端へ移動した。どうやらそこから床へ飛び降りたかったようだが、さっき階段から転げ落ちた記憶が残っているらしい。少しためらう仕草を見せた。ハーマイオニーはくすりと笑って白イタチを抱きあげる。自分もベッドに腰を下ろすと、膝の上に白イタチを乗せてその背中にゆっくり手を滑らせた。
「そういう臆病なところとか、矜持が高いところとか、本当にそっくり。これがマルフォイだったらすごくムカつくところだけど……あなただとなんだか可愛いわね」
にっこり笑う。白イタチは一瞬目をぱちくりさせると体を丸めて顔を埋めてしまった。
「でも最近思うの。マルフォイは強がってるんじゃないのかな、って。そんな風にいつも完璧な自分を装っていたらきっと疲れるわ。彼には全てを見せられるような、そんな人がいるのかしら。家柄に縛られずに彼を見てくれるような人が………って私、また色々喋っちゃった。どうも相手があなただと口が軽くなるみたい」
ハーマイオニーは白イタチを撫でる手は止めず、でも照れを隠すようにわずかに頭を振った。対する白イタチはされるがままにしている。少しの間そのまま白いふわふわな毛の感触を楽しんでいると、談話室が騒がしくなってきた。
「あら、もうみんな帰ってきたみたいね。あなたはどうする? このままここにいてもいいけど……クルックシャンクスが怖がらせちゃうかもしれないわ」
白イタチはその名前にぴくっと反応するとじたばたと暴れ出した。
「やっぱりね。じゃあ中庭辺りまで連れていってあげるわ。乗りなさい」
ハーマイオニーが差し出した手に素直に乗る。あんまり暴れないでね、と言ってハーマイオニーは談話室へ続く扉を開けた。談話室を通り抜ける間、白イタチに気付いたグリフィンドールの面々が声をかける。もちろんハリーとロンも例外ではない。
「そのイタチ、どうしたの?」
そうハリーが問いかけると、ロンが続く。
「あの猫が手に負えなくなったから乗り換えたんだろ」
「あら、失礼しちゃう。クルックシャンクスはれっきとした私の大切なペットです!この白イタチはさっき廊下でうずくまってるのを見つけて怪我を治してあげたの。今から外に放しにいくところなのよ」
「ふーん……あれ?ちょっと待てよ。この目……」
「ごめんなさい。急いで行かないと外出禁止時間に間に合わないから」
ロンの言葉を無理やり遮って太った婦人の肖像画をくぐった。そこでふぅ、と息を吐く。言葉の続きはなんとなく予想がついた。予想がついたから思わず遮って逃げるように出てきてしまった。(だからそんなことありえないってば)無意識に早くなっていた鼓動を落ち着けるように白イタチの背を撫でる。少し震える指に気付いてか、白イタチがハーマイオニーの顔を見上げた。
「ね、そんなことありえないわ」
Ferret’s Tail -2-
結論から言うと、マルフォイの姿は大広間のどこにも見られなかった。ハーマイオニーがあまりに何度も背後のテーブルに目を走らせるので、ロンが料理を口いっぱいに頬張りながら
「一体スリザリンンの何がそんなに気になるのさ?」
と聞くほどだった。ハーマイオニーはマルフォイの名前とさっき会った白イタチの話が喉まで出かかったが、
「……いいえ、別に何でもないの」
と返した。
もちろんハリーたちに知られて困るようなことはなかったけれど、なんとなく自分一人の中に留めておきたかったのだ。それに、彼のシルバーブロンドが羨ましいなんて言ったら、ロンの苦虫を噛み潰したようなしかめっ面が簡単に想像できた。(だって無駄な争いは避けたいもの)ハーマイオニーは自分にそう言い聞かせて、二人より一足先に大広間を後にしたのだった。
「一体スリザリンンの何がそんなに気になるのさ?」
と聞くほどだった。ハーマイオニーはマルフォイの名前とさっき会った白イタチの話が喉まで出かかったが、
「……いいえ、別に何でもないの」
と返した。
もちろんハリーたちに知られて困るようなことはなかったけれど、なんとなく自分一人の中に留めておきたかったのだ。それに、彼のシルバーブロンドが羨ましいなんて言ったら、ロンの苦虫を噛み潰したようなしかめっ面が簡単に想像できた。(だって無駄な争いは避けたいもの)ハーマイオニーは自分にそう言い聞かせて、二人より一足先に大広間を後にしたのだった。
まさかその先の廊下に、さっき逃げられた白いふわふわが丸まっているなんて思いもしなかった。
「……っ、どうしたの!」
ハーマイオニーは慌てて駆け寄りしゃがみ込む。白い毛並みに手を伸ばして撫でるようにすると、白イタチはされるがままにしていた。というよりどうやら動けないようだった。丸まったまま、息をするたびに小さな体が上下に揺れている。ハーマイオニーはその体をそっと抱き上げた。
「怪我、してるのね」
白イタチが丸まっていた先にあるのは各寮へ続く上りの階段。おそらくその上からこの廊下まで転がり落ちてしまったのだろう。でも夕食の時間だったのが幸いして廊下に人気はなく、踏み潰される心配はなかったというわけだ。
どうするべきか。もちろんこのままここに置いていくわけにはいかないし、マダムポンフリーのところへ連れていくのが最良かもしれない。ハーマイオニー自身も怪我を直す魔法を使えないわけではなかったが、相手は人間ではないから失敗したら困る。魔法生物飼育学のハグリットは……いくら友達だとしても、さすがに治療を任せるには不安だった。
「とりあえず医務室に連れていくわね。……と、どうしたの?」
その言葉を聞いたとたん、急に白イタチが動き出した。弱々しいながらも鳴き声を上げている。
「だめよ、動いたら怪我が酷くなってしまうわ」
しかし白イタチはなおも逃れようとする。逃がさない程度に握っていたハーマイオニーの手を噛んだ。ハーマイオニーは痛っ、と声を上げるがその手を緩めることはしなかった。手の中で暴れる白イタチに向かって呆れたように呟く。
「一体なんだっていうの? そんなにマダムポンフリーが嫌なの?」
キィキィ声を上げて抗議を続ける白イタチを見て、はぁ、とため息をついたハーマイオニーは、口調を強めて言った。
「わかったわ。医務室には連れていかない。でもその替わりに私の部屋まで連れていくから、大人しくしていなさい。……私の魔法がどれくらい効くかはわからないけれど、やらないよりはマシでしょ」
途端に大人しくなった白イタチの目を覗き込んで続ける。
「だから、そんな怪我で逃げようなんて考えないでね。絶対今度は逃がしてやらないんだから」
これは魔法で姿を変えられた白イタチの、ちょっと甘く、ちょっと切ない物語。
Ferret’s Tail -1-
風が秋の色を帯びてきた中庭で、ハーマイオニーは一人本を読んでいた。彼女が手にしているのは『マグルの童話100選 魔法という目を通して』と書かれた分厚い本。もちろんマグル生まれの彼女にとってはどれも小さい頃に母親から聞かせられた馴染み深い話だったが、それを魔法界の視点から考察していたこの本は興味深いものだった。中でも特に目を引いたのは「美女と野獣」。魔法で野獣へと姿を変えられた男が商人の娘と恋に落ち、愛を成就させると本来の姿に戻ることが出来た、という話だ。
華奢な腕には重すぎるその本を脇に下ろしてふぅ、と一息つく。この世界で5年も過ごすと異種というものに偏見や恐怖を抱くことは少なくなった。何しろここには巨人もゴブリンもいるし、ケンタウロスのように人間にも通じる言葉を話すものもいる。しかし、その本来の姿ではないと知っていても、自分がこの娘のように野獣と恋に落ちる姿は想像できなかった。それ以前に心を通わせることすら不可能のような気がした。
ハーマイオニーが悶々と考えを巡らせていた時、視界の隅を白い何かが横切った。すぐ後ろをオレンジ色の何かが続く。ハーマイオニーはそのオレンジがペットのクルックシャンクスだと気付いて、その姿を目で追った。クルックシャンクスが睨んでいたのは城の壁と壁の間に出来た細い隙間だった。
「クルックシャンクス、どうしたの?」
ハーマイオニーが柔らかく声をかけてもクルックシャンクスは緊張を解かない。低い威嚇音をあげて毛を逆立たせていた。ハーマイオニーがその毛並みをそっと撫でると一瞬体を強張らせたが、すぐにミャオ、と鳴いて主人を見上げ、尻尾をくねらせた。
「もう……今度は一体何を見つけたの? ちょっとごめんね」
そう言ってオレンジを抱きあげる。そうしてできた隙間から中を覗き込んだ。
薄暗い中でかろうじて見えたのはくりくりした青色の目。追手から解放されたことにまだ安心できないのか、それは固まったまま目をぱちぱちさせていた。
「もう大丈夫よ。出ておいで」
ハーマイオニーがそう言って手を伸ばすとそれは身を翻し、彼女の伸ばした手と反対の方向に逃げた。
…否、逃げようとした。
実際はその先は行き止まりになっていて、それに気付いた白い何かは慌てふためいてパニックになったようで、細い隙間の中を必死で逃げ回っていた。ハーマイオニーはその光景を見て溜息を漏らす。
「さっきクルックシャンクスに追いかけられた時に、行き止まりだってわかってたはずなのに……ほら、出ておいで。あなたを傷つけるようなことは何もしないから」
ハーマイオニーの言葉なんてまるで聴こえていないようで、それは狭い中を走り回る。ハーマイオニーは仕方ないわね、と呟いて隙間に手を伸ばした。目一杯腕を伸ばしてやっと、白いふわふわした何かに辿り着く。優しくそれを掴んで明るいところへ引き寄せた。
「あら……イタチ? しかも綺麗に真っ白ね」
とうとう捕まってしまった白イタチはキーキー声を上げて体をよじり、なんとかその手の中から逃れようとしていた。肩に乗せられたクルックシャンクスがイタチに向かって唸り声を上げる。
「クルックシャンクス、ちょっと大人しくしなさい! この子が怖がっちゃうわ」
その言葉にクルックシャンクスはぷいとそっぽを向き、ひとつ大きな欠伸をしたかと思うとしなやかに彼女の肩から飛び降りた。夕食のネズミでも探しに行くつもりなのだろうか、尻尾をイライラしたように強く振ると歩き出し、城の角へと消えていった。
「まったくもう……」
その後ろ姿を見やって一つ溜息を落とすと、ハーマイオニーはまだ抗議の声を上げて暴れている白イタチに向き直って、ずいと指を突きつけた。
「あなたもあなたよ! クルックシャンクスはあなたを取って食べたりしないわ。それにもういないんだからそんなに暴れないで!」
命からがら逃げてきた動物に対してそんな理不尽な理由は通じないはずなのだが、白イタチは突きつけられた指に驚いたのか、ピタッと暴れることをやめた。ハーマイオニーはそれに満足してにっこり笑う。
「私の言ってることが分かるんじゃない。いい子ね」
本当にふわふわ~、と嬉しそうに言いながらハーマイオニーはその白い毛並みを撫でた。白イタチはくすぐったそうに体をよじったが、もう逃げる気はないようだった。
「あなたの白い毛、本当に綺麗で羨ましいわ。私なんかどう頑張ってもボサボサで嫌になっちゃう」
ハーマイオニーはその顔を覗き込む。白イタチの目が細められた。
「綺麗な青い目をしてるのね。でも……その目はやめて? なんだか思い出したくない誰かさんにすごく似てるの」
白イタチが動きを止める。ハーマイオニーは気付かずに言葉を続けた。
「聞いて。そいつはね、いつも威張ってて私や私の大切な友達にひどいことをするの。あいつにとって一番大事なのは家柄なんだわ。そんな風に生きて本当の友達や大切な人が出来るのかしら、って思うけど……ま、私には関係ない話ね」
ハーマイオニーの手の中でイタチが少し暴れたが、続いて出た彼女の言葉にまたしても固まった。
「でもちょっと羨ましいの。あのさらさらのプラチナブロンドだけはいいな、って思った。ほら、さっきも言ったけど、私の髪はこんなだから」
空いていた方の手に自分の髪をからませる。優しい目でイタチを見るとふわっと笑った。
「あなたの白いふわふわな毛。思い出しちゃうじゃない、マルフォイのこと」
しかしハーマイオニーがもう一度撫でようとすると、手の力を緩めたその一瞬で白イタチは地面に飛び降りた。あ、と追いかけようとしたが、声をかける間もなくかなりのスピードで草むらをすり抜けていく。すぐにどこに行ったか分からなくなってしまった。ハーマイオニーはぱたんとベンチに腰を落とす。
「……あんなに嫌がることないのに」
ついさっきまで温もりを握っていた手を見下ろした。もう少しあの白いふわふわを撫でていたかった、なんて思って。
「なんであんなこと言っちゃったのかしら」
あのふわふわを抱いていたら嫌いな彼を思い出して、つい言葉が口を出てしまった。なんだかいらないこと、余計なことまで話してしまったような気がする。動物相手だからつい心を許してしまったのだろうか、でもあのイタチの素振りはまるでハーマイオニーの言葉をわかっていたようだった。
「まさか……ね」
頭を振って自分の中に生まれたあり得ない可能性を振り払い、ハーマイオニーはすくっと立ち上がった。もうすぐ夕食の時間だ。大広間へと足を進めると、入口で手を振っているハリーとロンの姿が見えた。さっきの妙な出逢いは内緒、でも確認しなくてはいけないことがある、と思った。ここまで来たらハリーたちに聞くまでもないだろう。この目で確かめればいい。大広間に入ったらまず一番壁際のテーブルに目を走らせるのだ。ハーマイオニーの羨むシルバーブロンドがそこにいるかどうかを。
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異種と心を通わせる……このお話の一つのテーマです。
それは一見難しく見えるけれど、異種であるが故に容易く出来る時だってあると思うのです。
これからのハーちゃんと白イタチくんを見守ってやってください。
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異種と心を通わせる……このお話の一つのテーマです。
それは一見難しく見えるけれど、異種であるが故に容易く出来る時だってあると思うのです。
これからのハーちゃんと白イタチくんを見守ってやってください。